節税4つの種類 本物はどれ?
企業の節税の方法は様々ですが、その中でも良い節税と、注意が必要な節税とがあります。 今回は節税方法を4種類に分類し、各々の特徴と良し悪しについて解説していきます。
節税の4つの種類
節税の方法について、お金の支払いがあるかどうか又は税金を先延ばしするのか減額をするのかという点から、大きく次の4種類に分けることができます。
① お金を支払って、税金を先延ばし
② お金を支払わずに、税金を先延ばし
③ お金を支払って、税金を減額
④ お金を支払わずに、税金を減額
各パターンについて、節税方法の具体例とともに説明していきます。
① お金を支払って、税金を先延ばし
短期前払費用の特例(家賃の1年前払い)
基本的に、前払費用はお金の先払いになるため、支払った際に経費として計上することができません。
本来、支払った時点では資産計上し、役務の提供に従い費用計上するものになります。
ただし、費用の支払いから1年以内に役務の提供を受ける場合、支払いを行った期に経費として計上することが可能です。 この場合、毎年継続して同じ手続き(一括で支払う)を行う必要があります。また、支払いが月払いの契約になっている場合は、年一括払いに変更が必要です。
例)3月決算の法人の場合
4月分〜翌3月分の家賃を今期の3月末に支払う
→ 全額を経費として計上することができます。
先に1年分のお金を支払うことになるので、キャッシュフローの観点では注意が必要です。また、契約も1年間で縛られてしまうため、途中解約がしにくくなります。
また、2年目以降も同様の処理を継続する必要があり、業績面でも、データとして把握しづらくなります。このような理由から、あまりおすすめできる節税方法ではありません。
・保険の支払い
養老保険の例をご紹介します。
養老保険とは、生命保険の一種で、死亡した際の万が一の保証と将来に向けた貯蓄を兼ね備えた保険です。
養老保険は、貯蓄性が高いため原則全額資産計上となりますが、福利厚生を目的とした加入(普遍的加入)であれば、保険料の1/2を損金として計上することが可能です。
保険料を支払ったときにその1/2が経費として計上され、解約して保険金を受け取るする際に利益となります。このように、節税目的で短期的に加入している企業は多く存在します。
・中古車の購入(4年落ちより古いもの)
法人で購入した自動車は、減価償却を行い複数年に分けて費用計上していくことになります。この際、何年に渡り減価償却を行うかというのは「法定耐用年数」で決まります。自動車の場合、利用用途によっても異なりますが、普通乗用車ですと耐用年数6年が一般的です。
中古車の場合、経過年数によって耐用年数が変わります。
4年落ちより古いものになると結果的に1年(12カ月)で減価償却することが可能です。
例)3月決算の法人の場合
4月に中古車(4年落ちより古いもの)を購入
→ ほぼ全額の経費計上が可能。(備忘価額として1円を残す必要あり)
1年目の税金を減らすことができますが、2年目以降は経費を計上することができないため、結果として税金の支払いを先延ばししているということになります。
・経営セーフティ共済
経営セーフティ共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済制度になります。
参考)https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/index.html
取引先が倒産や一定の理由での支払不能となった際に、連鎖的に中小企業が倒産したり、経営難に陥ったりすることを防ぐための共済制度です。無担保無保証人で貸し付けを受けられ、その範囲は、以下のうちいずれか少ないほうになります。
(1)回収が不能となった被害額
(2)掛金総額の10倍に相当する額
掛金は全額損金算入することができます。また、掛金は40ヶ月以上(3年4ヶ月以上)経過後解約した場合、全額返金されます。ただし、解約手当金を受け取った際には一気に課税されるため、税負担としては変わらず、先延ばしということになります。
業績良好の際は納付を行い、業績不良となった際に解約をするという使い方です。
② お金を支払わずに、税金を先延ばし
・未払金や未払費用の計上
通信費や消耗品などの支払いを翌月以降に行う場合です。3月決算の法人の場合、3月末までに購入しているもので、支払いが4月以降になるものを経費計上することができます。
この内、「給料の未払い」(役員は含まない)は影響が大きな項目になります。
例)3月決算の法人の場合
前提:給料の支払いは15日締め、25日払い
→ 3/15までの給料は3/25に支払われますが、3/16以降の給料は4/25に支払われることになります。この場合、3/16から3/31までの給料を未払計上することができます。
・決算期の変更
3月に利益が急増することが見込まれるなど、時期によって売上に変動がある企業も多いでしょう。この場合、3月決算であれば利益が出た分の税金もすぐに支払わなければいけません。しかし、決算期を2月に変更した場合、利益が急増した3月分の税金は翌年に支払うことになります。実際の支払いも発生せず、税金の納付も先延ばしとなります。
決算期の変更は、節税のためというより、業務上煩雑になる期間が重なる場合や、営業上の都合により行うことが多いです。場合によっては節税の手段の一つにもなるので、使えるときには使っていくというのが一つの考え方になります。
③ お金を支払って、税金を減額
・消耗品や広告費、期末賞与の支払い
お金は出ていきますが、税金は減額となります。先延ばしではありません。
・配偶者等への役員報酬の支払い(非常勤)
家族経営の会社であれば、配偶者に役員報酬として給料を支払う場合が想定されます。この場合、配偶者が経営に関与していることが条件となります。非常勤でも支払いは可能です。(常勤勤務の場合は社会保険加入の必要が生じます。)
所得税は累進課税のため、一人に対して給料を増やしていくと税率は上がっていきます。(税負担が増えます) そこで、何人かで分散させることによって全体の税率は減り、世帯当たりの収入を増やすことができます。
・借り上げ社宅
福利厚生の一環として借り上げ社宅制度を活用している企業は多いです。借り上げ社宅制度は、会社が役員や従業員のために家主と直接賃貸契約を行い、役員や従業員に対してアパートやマンションを貸し付ける制度になります。
まず、会社は家主に家賃を払う必要がありますが、この家賃は経費として計上できます。家賃に対して算式を当てはめて、社宅に実際に住む役員や従業員から一般的に10〜20%を社宅控除として徴収します。この負担額は、給料から差し引くことになりますが、給料が減ると税率も下がるためトータルの手取りは増えます。
なお、「住宅手当」として支給された場合は給与としての支給になるため節税効果はありません。このように、借り上げ社宅は会社側にもメリットがありますが、役員・従業員側もメリットがある制度となります。
・出張旅費規定の活用
出張旅費規定を作り、出張が発生した場合に日当を支払います。この日当は、経費として計上することができます。また、消費税の課税仕入れになります。 出張日当は給与の対象にならないため、受け取る役員・従業員にとっては、課税対象とならず、日当をそのまま受け取ることが可能です。
④ お金を支払わずに、税金を減額
・備品の廃棄
備品(帳簿価格がついているもの)は、廃棄損で経費計上することが可能です。
・株式の売却やゴルフ会員権の処分
株式は、購入したときの価格より下がっているのであれば、売却することで売却損として損失を計上できます。ゴルフ会員権は、使わないのであれば処分し、経費(損失)を確定させるのが良いでしょう。
・【所得拡大促進税制】雇用者給与の税額控除
従業員に給料の支払いを行っている場合、「所得拡大促進税制」により法人税を安くすることが可能です。これは、個人所得の向上により経済成長を推進するための税制になります。給与支払いの増加額に対し、最大25%の税額控除を受けることができます。
要件を満たすと給与支払いの増加額に対し15%の控除を受けることができます。
条件は、継続雇用者に対し、今期の給料支給額が前期の支給額と比べて1.5%以上増加していることです。
継続雇用者とは、過去2年間継続して勤務している従業員になります。中途入社や退職者は対象になりません。
控除額は、法人税額の20%が上限となります
さらに追加の要件を満たせば25%の税額控除を受けることができます。控除額増額のためには、継続雇用者に対し、今期の給料支給額が前期の支給額と比べて2.5%以上増加している必要があります。且つ、次のいずれかを満たす必要があります。
(1)教育訓練費が前年度と比べ10%以上増加していること
(2)経営力向上計画の認定を受けていること。証明となる、経営力向上計画や認定書、報告書の写しを提出すること。
所得拡大促進税制の利用は、税金の直接減額になるため、非常に効果が大きい制度といえます。経営力向上計画の認定は難しそうにも聞こえますが、書類さえきちんと提出していれば認定を受けることが可能です。期間は5年間がおすすめです。
まとめ
税金の先延ばしと税金の減額では意味が違う。
税金の「先延ばし」の場合、現在支払わなければいけない税金は減りますが、後々払わなければいけない税金は増えることになります。そのため、トータルでみると税額は変わりません。一方、税金の「減額」であれば、直接金額が減ることになります。節税方法によって、単に先延ばしにしているだけなのか、トータルでみて税金を減らせているのかを意識するようにしましょう。
お金が出ていく節税のやり過ぎには注意
お金を支払うことによって節税となる方法もご紹介しました。しかし、節税対策をやり過ぎた結果手元に資金が残らなくなってしまうと、今後の事業展開や資金繰りで苦労することになります。健全な経営のために、適切に納税を行い、手元の資金は十分に確保するようにしましょう。